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クレドのにっき

クレドのにっき

胸中と望郷

 思うに、自由というのはなんだろうか?
「何も知らずにとべること。そらをとぶ鳥のように」?
 束縛とはなんだろう?
「毎日会社にいって毎日仕事して、普通にくらすこと」?
しかしてそれならば前者の自由とは随分難しい話になる。
ひとは何をしていても腹がすくし、何をしていても必需品というものがほしくなるし、すむ所も「借り」る為にお金を使う。
だとすれば、どうやったって自由などというものは幻想でしかないだろう。
 鳥は人間じゃない。俺たちとは違う。自分で餌をとって、自分で住処を造れる。だけど、人間は自分で餌をとるにも金が必要で、自分で住処を作るにも金が必要だ。
 加えていうなら、俺には誰も助けてくれるひとがいない。
 島根の伯母――生活保護を受け水道も止まって音信不通――
 両親――閑古鳥の鳴く業務請負業=財力ゼロ――
 祖父母――両方とも死去――
しかし、だ。
実家を出て俺は色々なものを手に入れた。
自分だけの部屋、自分だけのもの、そういったもの。
それは、俺が欲しくてたまらなかったものだ。
小説を書いていて邪魔されない空間。バカにされない空間、八つ当たりでものを棄てられない空間、八つ当たりで殴られない空間。
 それこそが、俺の自由だ。そうだろう?
 俺はそれが欲しかった。
…実家を出て、ようやっと自由を得たと思った。
でも。
誰も助けてくれず、誰もいないなら、俺の人生とは何なのだろうか?
 ここは――今いる、俺が獲得したこの空間は、地は、とても開けているけど、その分土の匂いや風や、川もない。
水辺の土の匂い、春と秋の収穫期、風に揺れる稲穂。
そういったものは全て生まれた時からあった俺の周りのものだった。
 だけど、あの家には戻りたくない。絶対に戻りたくない。
 あそこはなんでもない家畜小屋。
俺の人生の歩みを邪魔するだけの。
出たことに、後悔はしていない、と思っている。
俺は、俺自身で身を立てられるはずだし、その力もある筈、と思っている。

 …だけど本当にそうだろうか?
 俺には本当にそんな力があるんだろうか?
 俺はそんなに、価値があるんだろうか?

何がやりたいのか、
とか、
何処にいきたいのか、
とか、
人生の岐路はこれからもきっと幾つもあるだろう。
もしかすると今もそうなのかもしれない。
俺は、どうやって行動するのか?
(怠惰な毎日に耐えられない。)
だけど、そうそういつまでも飛んでいられるほど金もねぇ。
だったら、悩んでいるよりは…

 と、思って走ってきた。
これからも走っていけるのだろうか?

それは、俺のみが知っていることだろう。


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